東京都立大学大学からのお知らせ ゼミ研究室紹介
掲載している内容は、2025年10月時点のものです
理学部 化学科
有機合成化学研究室
有機合成化学研究室の1枚!
 

これはどのような実験装置ですか?

グローブボックスと呼ばれる装置で、隔絶した環境で合成実験を行うための設備です。

なぜこうした装置が必要なのでしょう?

空気中の酸素や水分と反応しないような環境で実験を行う必要があるんです。内部にはアルゴン(不活性ガス)が充填してあり、その環境下で合成実験を行っています。
新しい物質の有機合成と、新しい反応手法の確立に挑む
研究テーマ
電子配置の違いに注目して新しい炭素化合物を産み出す
 不活性ガスで満たされたグローブボックスのなかで物質の合成実験を行う
不活性ガスで満たされたグローブボックスのなかで物質の合成実験を行う
有機物を人工的に作成する有機合成化学は、プラスチックなどの石油化学製品から、医薬品や化粧品、液晶ディスプレイなどのデバイスに至るまで、様々な分野での研究開発の基礎となる領域だ。有機合成化学研究室を率いる楠本周平先生は、未知の物質の合成を念頭に、研究活動を展開している。
「主に、有機分子を対象にした研究を行っていますが、大きなテーマは2つあります。1つ目は、自然界には見られない新しい物質の状態を人工的につくり出すということです。例えば、有機合成化学ではおなじみの炭素といった原子を中心とした化合物でも、電子構造や結合の仕方の違いによって、異なる性質の物質になります」
現在、この新しい物質の候補として研究を進めているのが、「電子不足カルベン」と呼ばれる特殊な炭素化合物の合成だ。通常の炭素は結合する手が4本あり、周囲の元素と安定した結合を形成する。しかしカルベンと呼ばれる状態では結合する手は2本しかない。このカルベンに2つのホウ素原子を結合させることに成功。通常では考えられない電子配置を持つ、電子不足カルベン分子の合成手法を確立したという。
「カルベンは、金属原子と結合をつくることが知られています。この電子不足カルベンを、他の金属との結合に適用することによって、まったく異なる性質を持った金属の合成につながるかもしれません。そういった応用につながる基礎研究です」
基礎研究と応用
有機化学の可能性を広げる第3の分子結合切断手法
有機合成化学研究室の、もう1つの研究テーマが“有機合成における新しい反応方法の開発”だ。特に注目しているのが、分子内の結合を切る新しい手法で、炭素と水素の結合を切る独自の手法を編み出している。
「炭素と水素の結合を切る方法としては、これまでの主に2つの方法が知られていました。1つ目は、反応させる金属が電子を2つ失う一方で炭素・水素ともにマイナス電荷をもつ状態になる方法。2つ目は反応させる金属に結合することにより、炭素がマイナス、水素がプラスの状態で切断されます。私たちが開発した第3の方法では、特殊な配位子を持つ金属錯体を使用します。金属は電子を2つ失いますが、炭素マイナス水素プラスという状態で結合切断することができます」
従来の方法は1960年代から知られていたが、実に数十年ぶりに生み出された新しい分子結合の切断方法だという。現在は、まだ基礎研究の段階だが、天然ガスなどの炭素化合物資源を有効利用するための新たな手法として将来的な応用が期待されている。
研究者の資質
想定外の実験結果から新たなヒントを見出す目を養う
 研究室では、学生同士のディスカッションも活発に行われている
研究室では、学生同士のディスカッションも活発に行われている
有機合成化学の研究は、仮説や予測を立て、それを実証する実験を行っていく。トライ&エラーを繰り返しながら少しずつ目標に近づいていくような、地道な研究活動に支えられている。実験を行っても想定通りの結果が得られないことの方が多い。しかし、それも結果の1つで大切なことだと、楠本先生は語る。
「想定外の結果や生成物ができることは、非常に多いです。でもそれは決して失敗ではない。なぜ予想と違ったのか、この化合物ができたのはどんなプロセスだったのか、検証すること自体がおもしろく、そこに新たなヒントが潜んでいる可能性があります。うまくいかないなかからも、何かおもしろいものを見つけ出す観察眼や、その過程を楽しめる心を持つことが、研究者には必須なのかなと思います」
そのため、実験後の学生とのディスカッションも、単に結果報告だけでとどまらない。常に得られた結果が次にどのようなことにつながるのかまで考えることを要求するという。そして、安全面にも配慮しながら、「常に考える」ことを大事にするように指導する。
「よく言うのは、一挙手一投足に頭を使いなさいということです。私たちの実験では、取り扱いを間違えれば危険を生じることが多いので、安全への配慮が必須ですし、そこまで考えることで見えてくるものがあります。実験では、ときに目の前で自分しか知らないことが起こることがあります。世の中の誰も知らないことが目の前で起こり、自分だけが知っているっていう瞬間がある。これは研究者としてはすごく嬉しい瞬間で、大きなモチベーションになります」
学生の声

反応の機構やメカニズムを考えていると、モチベーションが上がります
理学部 化学科
4年 S.Y.さん
*学年・インタビュー内容は取材時のもの
中学生の頃から化学が好きで、有機化学を学びたいと思い、理学部へ進学。大学の講義や先生とのディスカッションのなかから、物質が変わっていくメカニズムや、新しい物質を作る手段を考えることにおもしろさを感じるようになり、有機合成化学研究室に入りました。
現在、手がけている研究テーマは「従来のカルベンと新しいカルベンを結合させて新しい二重結合物質の性質を探る」というもの。現在は、この研究室で開発した新しいカルベノイドの再合成に成功したところで、これから研究テーマである、従来のカルベノイドとの結合反応に取りかかる予定です。僕自身は、どちらかといえば反応の機構を考えたり、実験手法のアイデアを考えたりすることにおもしろみを感じるタイプ。考えたことを実証するのが実験だと捉えていますが、それでも実験で自分の思い描いたとおりの結果が得られたときの嬉しさは格別ですね。
今後は、博士課程への進学を考えていて、5年先を見据えて研究に取り組むつもりです。そういう意味では、研究生活の第一歩を踏み出したばかり。将来的には、有機化学の分野で革新的な発見ができればいいなと思っています。
電子不足、ホウ素二置換カルベン
 
従来多く用いられてきたカルベン(左)は強く電子を与える性質を持っていたが、ホウ素を二つ結合させることで、カルベン炭素が強く電子を受け入れる性質を持つことを示した(右)。炭素中心の電子配置が逆転していることが特異な性質のカギである。
新しい炭素―水素結合切断形式
 
イリジウム金属とシクロペンタジエノン配位子の組み合わせによって、炭素―水素結合を炭素マイナスと水素プラスに切断した。イリジウム中心から有機配位子への電子移動によって、新たな結合切断が可能になった。
 
2014年 東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻 博士後期課程修了。博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科の助教・講師や日本科学技術振興機構さきがけ研究員(兼任)を経て、2024年から東京都立大学理学部化学科教授に就任。「シクロペンタジエノン金属錯体の金属-配位子協働を基軸とする結合の不均等切断・形成」研究では、令和6年度の錯体化学会研究奨励賞を受賞するなど、多くの受賞歴がある。
その他のゼミ研究室紹介
- 人文社会学部 人文社会学科 心理学教室
- 人文社会学部 人文社会学科 社会学教室 社会調査法演習
- 人文社会学部 人文社会学科 福田研究室(表象文化論教室)
- 法学部 法学科政治学コース佐藤ゼミ(現代日本政治)
- 経済経営学部 経済経営学科 マーケティングゼミ
- 経済経営学部 森ゼミ(テキストマイニング)
- 理学部 物理学科 超伝導物質研究室
- 理学部 生命科学科 進化遺伝学研究室
- システムデザイン学部 電子情報システム工学科/大学院 システムデザイン研究科 電子情報システム工学域 波動情報工学研究室
- 都市環境学部 地理環境学科 地形・地質学研究室
- 都市環境学部 観光科学科 地理学研究室
このページに関するお問い合わせ
| 大学・部署名 | 東京都立大学 アドミッション・センター(入試課) | 
|---|---|
| Tel | 042-677-1111 | 
| admission-tmu@jmj.tmu.ac.jp | 
 
        


