<入試科目の掲載について>
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公立

とうきょうとりつ

東京都立大学

東京都立大学大学からのお知らせ ゼミ研究室紹介

掲載している内容は、2023年9月時点のものです

理学部 生命科学科
進化遺伝学研究室

進化遺伝学研究室の1枚!

これは何の画像を見ているのですか?

オウトウショウジョウバエの産卵管を実体顕微鏡で拡大したものです。

何か特別な特徴があるのでしょうか?

ほかのショウジョウバエとは違い、産卵管がギザギザしたノコギリの刃のような形をしています。この形状の違いが、独自の産卵方法や交尾行動につながっているんですよ。

環境に適応して多様性を獲得してきた生物の進化過程を、
ゲノム解析で遺伝学的に解き明かす

研究テーマ

適応や種分化のブラックボックスをゲノムで明らかに

生物がどうやって進化してきたのかという大きな課題に対し、遺伝子やゲノムに着目して進化の過程を研究しているのが、進化遺伝学研究室だ。現在、3名の教員が所属しそれぞれの教員が独自の研究を進めているが、今回お話をお聞きした高橋文教授は、生物が環境に適応して獲得した独特な形や性質について、ゲノム解析の手法を駆使して遺伝的な観点から進化過程の解明に挑んでいる。

進化遺伝学は生物が進化の過程でどのようなゲノムの変化を経てきたかを探る分野です。現在は主に、ショウジョウバエを題材に、生き物が自然のなかでどうやって生きて多様化してきたのかという生き物の生態と、遺伝子レベルの世界をつなぐ研究をしています」と、高橋先生は説明する。研究室では、研究室内での飼育実験やゲノム解析だけでなく、近くのフィールドに出て、野生のショウジョウバエを採集することもあるという。「マクロとミクロの視点をつなぐのが、この研究の面白さのひとつですね」と、その魅力を話してくれた。

研究の展望

産卵管の進化と繁殖様式の関係を遺伝子レベルで研究

現在、注力しているのが、オウトウショウジョウバエの産卵管の形状と独自の繁殖行動を、ゲノム解析を用いて遺伝子レベルで解明する研究だ。

「オウトウショウジョウバエは、東アジア原産の種で、この大学周辺のフィールドにも棲息しています。普通のショウジョウバエは腐りかけた柔らかい果物に卵を産みつけますが、オウトウショウジョウバエは、新鮮で皮の硬い果実に産卵してしまうため、農業害虫としても知られています。メスの産卵管が変化しており、長くのこぎり状に肥大化した形状に発達していて、堅い皮を突き破って卵を産みつけることができます。この独特な形の産卵管のおかげで、交尾するオスの生殖器も産卵管の形に合うように進化しており、交尾の姿勢や行動もほかの種とは違っています。そのため近縁種のショウジョウバエでも、自然状態での交配はできません」

高橋先生は、その生態や形質を観察する一方で、オウトウショウジョウバエのゲノム情報を解析、近縁種との比較なども行って遺伝子のどの部分の変異が産卵管や生殖器の進化に関わっているのかを調べている。その結果、遺伝子のなかでも入れ替わりやすい特定部分に、産卵管や生殖器の形質を決めるゲノム情報があることがわかってきた。

「ゲノム編集の技術を用いて、特定の遺伝子の機能を潰してみる『ノックアウト』と呼ばれる手法での研究を行っています。その遺伝子を持っている個体と持っていない個体の形質を比べることで、遺伝子の役割を調べることができます」

進化や種分化の仕組みは、昔から研究されているテーマだが、実は進化の過程についてはまだ曖昧な部分も多い。高橋先生の研究は、適応による形質の進化や種分化が、遺伝子のどのような変異によって進行してきたのかをたどるもの。進化の過程に遺伝学的にアプローチし、生命の不思議の解明に迫っている。

研究室の学び

「あなたはどう考えますか?」と学生に問いかける

東京都立大学には、研究に興味を持つ学生が1年次からでも自主研究に取り組める伝統がある。そのため、明確な研究目標を持って研究室に配属される学生も少なくないという。「実はオウトウショウジョウバエの産卵管の研究も、最初は学生が研究してみたいと申し出たテーマでした。それが今につながっています」と高橋先生は振り返る。

また学生の研究姿勢について、よく指導することがあるという。「研究に関する質問や相談をされたときに『あなたはどう考えるんですか?』と問い返すことが多いですね」

研究では、必ずしも明確な答えがあるわけではない。そこでまず問題に対して学生自らが考え、それをサポートして一緒に解決への道を探していくというのが、高橋先生のスタンスだ。

「研究活動では、必ず問題にぶつかります。そのときにすぐに人に頼るのではなく、まず“自分で考える”ことが大切。そのうえで問題解決をめざす意識や情報を収集するスキルも必要ですし、チーム内や共同研究者とのコミュニケーション能力も必須です。そういったものは、必ずしも研究に限った話ではなく、一般社会でも求められるものだと思います。研究活動を通して身につけて、社会に出てから生かしてほしいと思っています」と、優しい眼差しで話してくれた。

学生の声


昆虫の“休眠”に着目し研究に取り組んでいます

大学院 理学研究科
生命科学専攻
博士後期3年 F.T.さん

*学年・インタビュー内容は取材時のもの

生態系を学ぶのが好きで、キャンパス内にある牧野標本館や小笠原にある研究施設など充実した環境のある東京都立大学(当時は首都大学東京)に進学しました。大学で学ぶなかで、生物が環境に適応する過程や、どう進化してきたかに興味が湧きました。そのときに高橋先生の授業に出合い、環境適応に関するゲノム構造や原因遺伝子を学べることを知り、この研究室を希望しました。私の研究テーマは、昆虫の休眠です。ショウジョウバエは成虫が休眠しますが、そのときにエネルギーを減らすために生殖機能を抑制する生殖休眠を行います。着目しているノハラカオジロショウジョウバエは、北海道から沖縄まで棲息している種ですが、北海道の集団は休眠して、沖縄の集団は休眠しません。本州にいる集団には休眠するものとしないものがあります。その違いをゲノムで比較することで、休眠に関係する遺伝子と発現量の相関を調べています。この研究室は先生との距離が近く、いい意味で自由です。振り返れば雰囲気の良さと高橋先生の穏やかな人柄も、この研究室を選んだ理由のひとつでした。将来は、高橋先生のような研究者の道に進めればと考えています。

のこぎり状の産卵管を持つオウトウショウジョウバエ

オウトウショウジョウバエは硬い果実に産卵するために、のこぎり状の産卵管を持ち、雌雄が交尾するときには、この産卵管の形が雄の生殖器の形と合う必要がある。そのため、オスの生殖器の形も変化することがわかっている。

オウトウショウジョウバエの雌雄の生殖器の形の進化に関するゲノム解析データ。近縁種と異なる進化を遂げた過程を遺伝子やゲノム進化の観点から調べるために、近縁種との違いと関連の深いゲノムの領域を探索している。

研究室ではオウトウショウジョウバエを飼育している。またキャンパス周辺にも棲息しているため、フィールドワークで採集することも研究の一環だ。

指導教員 高橋 文 教授

北海道大学大学院農学研究科博士課程修了。1997年から2000年にシカゴ大学研究留学生。2001年から日本学術振興会特別研究員。2003年から国立遺伝学研究所集団遺伝研究部門 助教。2012年から首都大学東京(現・東京都立大学)理学部生命科学科 准教授。2023年より東京都立大学理学部生命科学科教授。

このページに関するお問い合わせ

大学・部署名 東京都立大学 アドミッション・センター(入試課)
Tel 042-677-1111
E-mail admission-tmu@jmj.tmu.ac.jp

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