東京都立大学大学からのお知らせ ゼミ研究室紹介
掲載している内容は、2024年11月時点のものです
理学部 物理学科
超伝導物質研究室
超伝導物質研究室の1枚!

この実験室ではどんな実験を行うのですか?
新しい超伝導物質を産み出すために様々な物質を組み合わせて合成します。
どのように合成をおこなうのでしょうか?
目星をつけた物質を混ぜ合わせ、電気炉で加熱するなどして合成し、新しい超伝導物質を創り出すことをめざしています。
超伝導の新しい機能を創出し、最先端技術の可能性を広げる
研究の基盤
新しい超伝導物質の合成に成功
金属などの電気伝導性物質を超低温まで冷やすことで、電気抵抗がなくなる現象を超伝導という。1911年に発見されて以来、数々の研究が進められている分野で、新たな超伝導物質が探索されている。当初に発見された超伝導物質の多くは、液体ヘリウムの沸点となる-269℃をわずかに上回る極低温で超伝導性を示しているが、その後の研究の主軸はより高い温度で超伝導性を示す物質の探索だ。
超伝導物質研究室を率いる水口佳一先生は、2012年に新たな超伝導物質である硫化ビスマス(BiS2)系層状超伝導体を発見した。現在はこの分野のトップランナーの一人として、研究を続けている。
「私が大学に入学する直前の2001年当時、新しい高温超伝導物質が日本で発見され(二ホウ化マグネシウム、MgB2)、それで超伝導の研究に興味を持ち取り組むようになりました。その後に、博士課程のときに鉄ヒ素系の組成の超伝導物質の研究が世界的に盛んになりました。本学着任後に、それと似たような層状構造で鉄ヒ素(FeAs)層を硫化ビスマス(BiS2)層に置き換えた物質を合成したところ、超伝導性を持っていました。セラミックスの層とBiS2層が弱く結合している特殊な層が積み重なっている、自然界には存在しない物質です」
この発見は水口先生が2011年に首都大学東京(現東京都立大学)に赴任してすぐのことで、その成功をきっかけに超伝導物質研究室はスタートし、現在に至っている。
「見つけたときはメチャクチャ嬉しかったことを覚えています」と、水口先生は当時を振り返った。
研究テーマ
未知の物質を創り出しその特性を探る

超伝導物質研究室の研究テーマは、大きく三つの柱がある。一つ目が、“新物質の創出”、二つ目が“新物質の物性解明”、そして三番目が“新材料・新機能の創出”だ。なかでも、最も力を入れてきたのが、「新しい物質を作り出すというところが私達の一番力を入れていることですね。基本的には実験が主体の研究です」と水口先生は話す。
超伝導性を持つ新物質を求めるため、データライブラリーからこれまでに超伝導性が報告されていない金属系物質を選出。それをいくつか組み合わせて、熱や高圧力などをかけて反応させ新物質の合成を行う実験が、研究活動の柱となる。そのひとつが、超伝導性を持つ“ハイエントロピー合金型化合物”の創出だ。ハイエントロピー合金とは、5種類以上の金属元素を混合した合金のことで、元の金属にはない新しい機能を持つ可能性が高い。超伝導物質研究室ではハイエントロピー合金型の新たな化合物(テルル化物や層状化合物)を創り出し、それに超伝導性があることを発表してきた。
このように生み出された新物質は、二番目の研究テーマである“新物質の物性解明”につながっていく。
「創り出した新物質について、超伝導性の検証や、低温物性などについて明らかにしていきます。さらにその測定結果から、新物質の組成を少し変えて、求める物性を持つ新たな物質にチューニングしていきます。これは物質合成と物性測定の双方を行っている研究室だからこその特徴ですね」と、先生は説明する。
研究の発展
物質合成のノウハウで広がる応用研究
また近年、研究の比重が高まってきているのが、三番目の研究テーマである“新材料・新機能の創出”だ。これまでの研究活動で培ってきた物質合成のノウハウを生かし、新たな研究へとつなげている。そのひとつが“超伝導体の磁気熱スイッチング”だ。磁気熱スイッチングとは、磁場をかけると熱の通しやすさが大幅に変わる物性を利用した熱制御技術だ。
「磁気熱スイッチングが可能な物質を探す科学技術振興機構のプロジェクトに参加しました。超伝導を使うと、磁場の印加で熱伝導率を変化させられることはわかっていたのですが、それまでの物質では磁場が切れると元の熱伝導率に戻ってしまうのです。能動的な熱制御の観点から、磁場を切っても元に戻らない“不揮発性“も重要なのですが、世の中の磁気熱スイッチングで不揮発性は観測されたことがありませんでした。ところが、ありふれたハンダ(鉛とスズの合金)を超伝導状態で使うと、磁場が切れても高い熱伝導性を維持され、不揮発性の磁気熱スイッチングに使えることがわかりました。次世代のメモリなどに使えるかもしれないまったく新しい物性です」と水口先生は説明する。このほかにも負の熱膨張を持つ超伝導体を創出し、熱膨張係数を自在に制御できる手法の開発も進められている。
超伝導技術は、すでにリニアモーターカーや量子コンピュータ、さらには送電ロスが少ない超伝導ケーブルなどで実用化されている。かつて、日本の研究所で発見されたビスマス系銅酸化物高温超伝導体は、-163℃で超伝導状態になり、高温超伝導ケーブルに使われる素材となっている。しかし超伝導物質の応用はまだ序の口、可能性はまだまだ無限大と言える。
「究極の目標は、冷やさずに超伝導となる常温超伝導を実現する新物質を創り出すことです。まだまだ難しいですけどね」と、水口先生は未来を見据えた。
学生の声
大学の実験で超伝導のおもしろさに目覚め、将来は研究者をめざしています
大学院 理学研究科 物理学専攻
博士前期2年 Y.W.さん
*学年・インタビュー内容は取材時のもの
元々は宇宙系志望で進学したのですが、大学に入ってからめざす方向が変わりました。学部1年次に各研究室の研究分野を説明してくれる授業で、水口先生の話を聞いて物性物理に興味を持ちました。高校の化学で習ったことを、大学の物理ではその仕組みに説明を与えて理解していく部分におもしろさを感じたのです。また3年次の実験でテーマに超伝導を選び、銅酸化物超伝導体の原料を混ぜて焼く超伝導物質合成を体験し、物質を創って測定することに魅力を感じました。手を動かす実験が性に合ったこともあり、超伝導物質研究室に入りました。
現在手がけている研究は、異方的熱膨張を示す超伝導体の研究です。通常の物質は加熱すると膨張して体積が増えます。ところが、縦・横の2軸方向で、それぞれに膨張のしかたが異なる物質を研究しています。ある方向には温めると伸びますが別の方向には温めると縮む構造を持っており、結果として加熱しても体積が変わらない超伝導物質の発見に至りました。研究を始めてかなり早い段階で、目指す物質を創ることに成功し、現在は様々な物性の測定を手がけています。今は圧力をかけていないとこの現象は発現しませんが、将来的に常圧で実現できれば、微細な精密素子などに応用できる可能性があります。水口先生が日常におもしろく話されるなかから、ちょっとしたヒントを得て研究に活かすことも多いですね。
今後は後期博士課程に進む予定で、将来は水口先生のように研究者の道をめざすことも考えています。
ハイエントロピー合金の構造

最近の研究で、様々な超伝導体を多元素固溶(ハイエントロピー化)することに成功した。例えばPbTeのPbを様々な元素で固溶すると、ハイエントロピー型の超伝導体になる。図中のΔSmixは配置エントロピーを表している。
ゼロ体積熱膨張を示す超伝導物質

CoZr2超伝導体が、高圧を印加するとほぼゼロ体積熱膨張を示すことを発見した。超伝導体で広い温度域で体積熱膨張をしない物質は非常に稀であり、本現象の機構を解明することで熱サイクル耐性を持った超伝導素子の開発につながることが期待されている。

2010年、筑波大学大学院数理物質科学研究科修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員を経て、2011年、首都大学東京(現東京都立大学)大学院理工学研究科助教。2017年より現職。東京都立大学先導研究者に2度選出。2012年には硫化ビスマス系の層状超伝導物質を発見し、文部科学大臣表彰若手科学者賞や凝縮系科学賞など多くの受賞歴を有する。
その他のゼミ研究室紹介
- 人文社会学部 人文社会学科 社会学教室 社会調査法演習
- 人文社会学部 人文社会学科 福田研究室(表象文化論教室)
- 法学部 法学科政治学コース佐藤ゼミ(現代日本政治)
- 経済経営学部 経済経営学科 マーケティングゼミ
- 経済経営学部 森ゼミ(テキストマイニング)
- 理学部 生命科学科 進化遺伝学研究室
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- 都市環境学部 地理環境学科 地形・地質学研究室
- 都市環境学部 観光科学科 地理学研究室
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