私立

とうきょうこうか

東京工科大学

東京工科大学大学からのお知らせ ゼミ研究室紹介

掲載している内容は、2022年8月時点のものです

応用生物学部
腫瘍分子遺伝学研究室

腫瘍分子遺伝学研究室の1枚!

この実験は何を行っているところですか?

実験に使う、人のがん細胞を培養しています。

がん細胞を調べる目的はなんですか?

がん原因遺伝子とそれと対になる遺伝子を探し出して、新しい抗がん剤の創薬につながるタネを見出す研究を行っています。

遺伝学的手法の“合成致死”をがん治療に応用し
がん抑制遺伝子変異に対応する抗がん剤のタネを探求する

研究テーマ

遺伝学の手法で副作用の少ない抗がん剤のタネを探す

村上優子先生が率いる腫瘍分子遺伝学研究室では、その名前にあるとおり、がんについて遺伝学の手法を用いた研究を行っている。その中心となるテーマは、遺伝学の見地からアプローチし、副作用の少ない新しい抗がん剤創薬につながるタネを見出す研究だ。従来の古典的な抗がん剤は、細胞分裂が活発な毛根細胞や腸管の上皮細胞も攻撃するため、髪の毛が抜けたり下痢をしたりという副作用が強いデメリットがあった。そこで特定のがん細胞にのみ働きかける分子標的薬に注目が集まっている。

「がんの増殖は、よく自動車のアクセルとブレーキに例えられます。機能獲得変異と言われる、いわばアクセルを踏み続ける状態でがん細胞が増え続ける場合と、ブレーキに相当するがん抑制遺伝子が壊れる機能喪失変異による場合があるのです」と村上先生は話す。アクセルが壊れてがん細胞が増殖するがん遺伝子変異(機能獲得変異)の場合は、増えている細胞を攻撃する阻害剤がつくりやすい。一方で、ブレーキとなるがん抑制遺伝子が変異してがん化する場合(機能喪失変異)では、阻害薬タイプの抗がん剤を作ることができないという。村上先生は、がん抑制遺伝子が変異するタイプのがんにピンポイントで効き、副作用の少ない新しい分子標的薬の創造に、遺伝学の手法で挑んでいる。

研究手法

合成致死を利用し、悪性中皮腫のがん細胞を狙い撃つ

現在、研究対象としているのは、“悪性中皮腫”と呼ばれるがんだ。肺などの臓器を包む膜に含まれる中皮細胞にできる悪性腫瘍で、主にアスベストにより引き起こされることで知られている。早期発見が難しく手術による除去が難しい部位のため抗がん剤による治療が主流だが、効果的な阻害剤をつくることが難しい、がん抑制遺伝子の変異が原因となるタイプだ。

その難問に対して村上先生は、「遺伝学で使われる“合成致死”という現象を利用して、変異したがん抑制遺伝子に対応する分子標的薬につながるタネを探しています」と研究を続けている。合成致死は、A、B二つの対になる遺伝子があった場合、どちらか片方が変異しても死なないが、両方とも変異すると死んでしまうという現象だ。そこで、悪性中皮腫を引き起こすがん抑制遺伝子のパートナーとなる遺伝子を探し出し、そちらの阻害剤をつくることで、がん細胞のみを死滅させることをめざしている。正常な細胞はパートナー遺伝子だけを阻害しても死ぬことはないため、副作用の少ない抗がん剤になりうるのも大きな魅力だ。現在、多くの研究者が注目する研究テーマとなっている。

「合成致死に至る、原因遺伝子に対応する遺伝子の組み合わせを、いくつか見つけることができました。また合成致死を誘導する化合物も探しており、特許の出願をしています。これが新しい抗がん剤のタネになればと考えています」と現状の研究成果を明かしてくれた。

研究室の学び

わからないことを解明する方法論を身につける

村上先生は、最初に薬学部で学んだあとに医学部に入り直し、研究を進めてきた経歴を持つ。「大学院時代は酵母を使った細胞周期の研究をしていました。当時、細胞周期の研究がノーベル賞に輝いたことに勇気づけられました。その後哺乳動物細胞へ実験系を変えるとき、今までの経験ががん細胞の研究につながると考え、現在に至っています」と振り返る。そして、現在の創薬において新しいイノベーションを引き起こすには、従来の枠にとらわれない、他方向からの視点も必要だという。現在手がける遺伝学からの創薬アプローチは、まさにその具現化だ。

また、学生が大学の研究室で学ぶことの意義についても話してくれた。「3年生までの講義や実験では、答えのわかっていることを学びます。しかし研究室では、わからない未知のことに取り組みます。研究室で学ぶのは、わからないことを解明していく方法論を身につけていくことです。正しい情報の集め方や文献検索の行い方、研究者同士で欠かせないコミュニケーション能力、そしてインプットしたことを自分の頭で考え、未熟であっても意見としてまとめて発信し、それに対する周囲の意見を聞いて再度考える。そういう方法論を身につけることが将来につながると、学生には話すようにしています」

学生の声


大学6年間で研究の魅力に目覚め、研究職に就く決意を固めました

大学院 バイオ・情報メディア研究科
バイオニクス専攻
修士2年 S.O.さん

*学年・インタビュー内容は取材時のもの

高校生の頃から生物が好きで、医薬品や化粧品、食品などについて興味を持っていたので、幅広く学べる東京工科大学の応用生物学部に進学しました。医薬品の道に進んだのは、身近な家族ががんを患い、闘病を身近に見てきた経験から、特にがんについての研究を深めたいと考えるようになったからです。大学入学時より大学院進学を考えていたので、村上先生が赴任されると同時に腫瘍分子遺伝学研究室に所属して大学院に進みました。

現在の研究テーマは、「がん細胞におけるシスプラチン(抗がん剤)耐性獲得の分子機構の解析」です。抗がん剤であるシスプラチンが効かなくなってしまったがん細胞を調べ、どういうメカニズムがあるのかを研究しています。生き物相手の実験は苦労も多いのですが、実験が成功して良い結果が得られたときの喜びが支えになっています。6年間の学生生活で研究活動の楽しさを実感し、卒業後も研究職に就くことに決めました。

研究のひとコマ

合成致死では、原因遺伝子と対になる合成致死遺伝子の双方が阻害されると細胞死に至る。すでに原因遺伝子が変異しているがん細胞では合成致死遺伝子を阻害すると細胞死するが、正常な細胞ではそのまま生存する。この仕組みでがん細胞だけを狙い撃つ抗がん剤が可能になる。

正常細胞と悪性中皮腫細胞において悪性中皮腫細胞の原因遺伝子変異に対する合成致死候補遺伝子の発現抑制を行うと、悪性中皮腫細胞でのみDNA損傷が起こるのが観察できる。

細胞内にあるタンパク質の局在を、蛍光染色して視覚化し確認する。こういった実験を積み重ねる。

指導教員 村上 優子 教授

名古屋市立大学大学院医学研究科生体防御・総合医学専攻修了。2012年より愛知県がんセンター研究所分子腫瘍学部主任研究員。2017年より順天堂大学医学部臨床検査医学講座 准教授。2019年より東京工科大学応用生物学部応用生物学科教授。

このページに関するお問い合わせ

大学・部署名 東京工科大学 広報課
Tel 0120-444-903
E-mail pr@stf.teu.ac.jp

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