
掲載している内容は、2023年9月時点のものです
応用生物学部
植物工学研究室
植物工学研究室の1枚!

独自に品種改良に成功したオリジナルのイチゴです。大学にちなんで“東京紅香(とうきょうこうか)”と名づけました。

糖度が20度もある、非常に甘くて美味しいイチゴです。
本編に続く
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植物機能を高める研究の成果で、甘いイチゴの品種改良に成功!
研究テーマ
甘くて通年生産可能な、新しいイチゴの品種を生み出す
植物バイオテクノロジーの手法を用い、植物が持つ機能の解明や、機能を高める研究を行っている植物工学研究室。ここで今、大きなトピックスとなっているのが、オリジナルのイチゴの誕生だ。研究室では以前からイチゴの栽培方法の研究を行っており、その延長としてイチゴの品種改良に取り組んだ結果、強い甘さと香りを持つイチゴを生みだすことに成功した。
「イチゴは、学生からも研究志望の多い人気の果物であり、私自身ももっと甘いイチゴが作れないかと考えていました。そこで特徴の異なる2つの種を交配させて品種改良を行いました」と話す多田雄一先生の試みは、オリジナルのイチゴ“東京紅香”として結実した。甘さの強い“越後姫”という種と、ほぼ通年をとおして収穫が可能な四季成りの特徴を持つ“よつぼし”という種を交配。その結果、飛びぬけた甘さを持つイチゴが生まれた。
「“東京紅香”の特徴は、なんといっても甘さです。糖度が20度あり葡萄の甘さに匹敵します。それと香りも非常に強くて果肉が柔らかい一方で、四季成りの性質も受け継ぐ品種になりました」という。通常のイチゴの糖度が10度前後、甘いとされる種でも15度程度なので、その糖度の高さは際立っている。
公式に新品種とするには種苗法に基づく登録が必要で、現在のところは新品種候補。今後、生産農家と協力し、畑で育てたうえで様々な形質の調査を経て、品種登録をめざす。一方で温度や光の波長などの栽培条件の最適化についても、研究を重ねていく予定だという。
「東京工科大学発の新たな名物として、世に送り出せれば嬉しいですね」と多田先生は目を細めて話してくれた。
研究室での学び
塩分の耐性が高い植物の機能を解明し、耐塩性作物の開発につなげる
植物工学研究室では、植物の様々な機能を遺伝子や分子レベルで解明し、有益な機能を高めデザインする植物分子育種に取り組んできた。なかでも注力しているのが、植物の耐塩性だ。沖縄などの汽水域にはマングローブが繁殖しているが、それと同じ環境に生えているソナレシバという種は、マングローブの3倍もの強い耐塩性を備えることに注目した。
「普通の植物は塩分をなるべく吸収しないのですが、ソナレシバなどの耐塩性植物は、むしろ積極的に吸収します。それで内部の浸透圧を高めて水分を吸いやすくするのです。さらに葉の表面に塩分を排出する“塩類腺”という器官を持つだけでなく、毒になるナトリウムイオンを葉の細胞のなかの害にならない場所に格納するような、特異な仕組みを持っていることがわかってきました」と説明する多田先生は、この機能をほかの植物に移植する研究に取り組んでいる。ソナレシバの耐塩性を司る遺伝子を、実験植物として使われるシロイヌナズナに遺伝子組換え技術で移植。高い耐塩性を持たせる改良を行っている。
「いずれはコメやムギなどのイネ科の穀物類に耐塩性を持たせる改良ができると考えています。耐塩性作物を開発できれば、塩害で砂漠化している土地の緑化や海水を利用した農業が可能になり、食糧問題や砂漠緑化などの環境問題の解決に貢献できると考えています」
さらにナトリウムと構造が似るカリウムにも注目。カリウムが少なくても育つ仕組みを見出し、肥料としてカリウムを与えなくても育成可能な作物を実現する研究にも取り組む。
「植物の力を活用して環境問題や食糧問題などを解決することは、SDGsが掲げるいくつかのゴールの達成に貢献できると考えています。」と多田先生は研究の意義を説明する。
今後の構想
他学部の学びとコラボする新たなプロジェクトを構想
植物の機能を高める研究の成果として誕生したイチゴの新品種候補“東京紅香”は、植物工学研究室の活動に新たな可能性をもたらしている。
「今後は、他学部の研究室との共同研究も視野に入れています。例えば“東京紅香”を生産する新たな植物工場を、工学部の研究室と共同で作り出せないかと考えています。またイチゴの栽培では受粉にミツバチを使います。そこでドローンを使って花を自動認識し機械的な受粉ができれば、農家さんの労働軽減につながる研究になります。収集した栽培データを解析し、即時に栽培にフィードバックするようなことも、コンピュータサイエンス学部の研究室と協力すれば可能でしょう。“東京紅香”をキーに全学的なプロジェクトにできないかと構想しています。」と、多田先生は今後の構想を明かす。
また研究の一助を担う学生には、「研究や実験方法について、改善は大歓迎。例えばより効率的な実験方法を考案し積極的に提案してくれるような、自分で考えて行動できる学生に期待しています」と話してくれた。
遺伝子組換え技術を使って有用な機能を移植する
ソナレシバはマングローブと同じ環境に自生する耐塩性の高いイネ科の植物。
ソナレシバの遺伝子を組み込んだシロイヌナズナを水耕栽培し、耐塩性の強さを検定。
実験には遺伝子組換えなどのバイオテクノロジーが用いられる。
指導教員
多田 雄一 教授
東京大学大学院農学系研究科修了。博士(農学)。三井東圧化学ライフサイエンス研究所研究員、茨城大学農学部非常勤講師、独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構主査などを経て、2005年に東京工科大学片柳研究所助教授、バイオニクス学部准教授に就任。2008年より応用生物学部准教授、2009年より現職。
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